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こころの支え

2017年7月10日 (月)

耳元でささやく声に

 自宅でふとんに寝ていると、左の耳元で、女の人のささやく声がして、
「しんや、しんや…」
 はっと目が覚めました。
 時計をみると、六時四五分、あと十五分で起床時間です。部屋にはまだ、ぼくしかいません。
 夏になると、〈ほんとにあった怖い話〉というオムニバスのスペシャルドラマをやっていたりしますが、夜、ひとりしかいない静かな部屋でぼんやり眺めながら、つくりもんだな、と思ったりしています。
 今朝の耳元でささやく声も、外のカラスの鳴き声が、そいうふうに聞こえたんだろうな、と思いました。
 かりにお化けだったとしても、それはそれでぼくは平気なのです。
 お金のからんだりする人や団体のいうことは信用しません。
 が、辛いとき、見えないところで支えてくれていたのかもしれないな、とあとからふりかえって、感じることはあります。
 数年前、とてもつらかったときがありました。
 これまで頑張ってきたことは、なんだったんだろう、と、気が滅入っていたのです。
 まったく別々の人から、
「反省なんて、なんにもしなくていいんです。あたりまえにしていても、災難はあるものです」
 それだけいわれておりました。
 朝目覚めてテレビをつけた瞬間、
「これまでやってきたことに、自信を持て!」
 という第一声が、タイミングよく流れてきたりということが多かった。美輪明宏さんが黄色い髪で出てきて、だいじょうぶよ、だいじょうぶだから、と笑みをたたえ、肩をなでてくれる夢もみました。多くは語らず、これからどうしたらいいか、ということは、ヒントもなにもありません。ただ、そういうことは落ち込んでいた時期にかぎってです。
 テレビなどの記憶のいたずらや常識だけでは割り切れないことがなんとなく、あるな、というような気もしています。
 みえないところからも支えられているような気がしながら、ぼくは生きています。

2011年12月22日 (木)

湯船につかり…

 湯船につかり、ふうっと息をつく。
 そばで汗を拭いながら、ひとりで何か呟いている。
「あぁ、ぼくのほとばしる肉汁が、尾崎さんにかかってしまっては…」
「???」
 風呂に入る日で、夜の八時にその介助にみえていた。いつも行儀よく正座し、
「きょうの入浴介助は、この、イベリコ豚がさせていただきます」
 それから介助を始める。人のよさそうな目の細い、おなかぽっこりの三十代の男のヘルパーさんである。
「こんなに寒いのに、どうしてこう肉汁が吹き出してくるんでしょう。やっぱり、ぶくぶく太ってるからかな。う~、これじゃ、ガッキーに会ったら、なんて言われるか…。でも、ガッキー、やっぱりかわいいなぁ」
 細い目がたれていた。ガッキーは新垣結衣さんの愛称で、たしか二十三歳ぐらいだろうか。あこがれの女優さんらしい。クスッとしながらぼくも、
「そういえばガッキーの出てた〈らんま1/2〉、録画してみましたよ。ガッキーがらんまかと思ったら、あかね役だったんですね」
「ショートカットにして、ますますかわいくなりましたよね」
「…ですね」
「そういえば志田ちゃん、最近出てないですよね」
 こんどはぼくのほおがゆるむ。
「それがなんと、ブルボン〈牛乳でおいしくホットなココア〉のCMに出てるんです。もう、うれしくて…」
 気づけば四十四歳、浮いた話ひとつなく、きょうまできた。志田未来さんは、十八、九のあこがれの女優さんである。彼女の笑顔がいつだって、ぼくの淋しい胸のうちを癒してくれる。
──クリスマスは、志田ちゃんの写真を飾って、BGMは、〈ハッピークリスマス〉にしよう…。
 目を閉じれば、カッコいいファッションに身を包み、志田ちゃんと手をつないで光のページェントを眺めているぼくがいる。
 湯船につかり、いつしかぼくの目も、たれている…。

2011年10月 1日 (土)

秋だから…

 湯船につかり、ふうとひと息つく。
 夜の八時過ぎである。入浴の介助でアパートにみえていた小太りの三十代の男のヘルパーさんが、
「こんど、またガッキーが出るドラマがあるので、楽しみなんです」
 その女優さんがお気に入りのようで、細い目がうれしそうにたれていた。ガッキーは、新垣結衣さんの愛称である。二十三ぐらいになるのだろうか。
 お父さんと中身が入れかわってしまう。そんなドラマが以前あった。女子高生の役で出ていて、毎週みていたのを思い出す。にっこりしながらぼくも、
「〈らんま1/2〉の実写版ですね。水かぶると、男の子になったり、女の子になったりするんでしたっけ。だいぶむかし、ちょっとだけ、まんが、みたことありますよ」
 ぽっこり出ているおなかを、彼はいとおしげになでていた。その動きにつられ、じっとみてしまう。
「夏バテでへこんだんだけど、復活してきました。外からも、虫の声がしてきますね」
 ぼくも耳をすまし、うなずきながら、
「やっぱりこれも、秋だから、ですかね」
 平成二十三年九月三十一日、空は雲が広がっていた。車の行き交う歩道を車いすを押してもらいながら行くと、ひとひら、ふたひら、枯れ葉が舞ってきた。午後の二時ごろだろうか。少なくなった定期薬をもらいに、かかりつけの診療所へ出かけていたのだった。
 歩道のあちら、こちらと、枯れ葉がわずかに落ちていた。街路樹はまだ緑が多い。けれど、住宅地の家の庭の柿の木の実が、前日通ったときより、いくぶん大きくなっていた。車いすを押してくれていたヘルパーさんも、
「やっぱり、秋ですね」
 しみじみと呟く。ふくよかな三十過ぎの主婦のヘルパーさんで、
「寒くないですか。尾崎さん、やせてるから。あたしは肉ぶとん、まとってるから、平気だけれど…」
 思いのこもった声だった。
「いや、あの、ですね、だいじょうぶです」
 というよりも、笑っちゃいけないところだと、こらえるのに必死なぼくだった。ちょっと冷たい風が、首すじをなでていく。
「そろそろインフルエンザの、予防注射の時期ですかね」
 聞かれて首を傾け、
「たぶん、申し込みは十月の末ぐらいだったと思いますよ」
「じゃぁ、まだ早いですね」
 うん、といいながら、もうすぐそんな時期なんだ、とあらためて思う。
「ことしは、大地震とか、いろいろありましたからね」
「ほんとです」
 診療所の待合室で、そんなやりとりをしていた。
 帰宅後は、パソコンに向かう。運動神経に関わる障害である。手があまり利かないので、割りばしをつけたサンバイザーをかぶり、頭を動かしながらキーを打つ。
 やるべきことが一通り終わり、ホッとする。
 風呂に入った夜は、ゆっくりすごす。すきな女優さんの出るドラマをみるのも、いつもの楽しみだった。
「風呂あがってから、なにかドラマとか、あるんですか」
 ヘルパーさんに聞かれ、首を傾ける。
「それがですね。志田未来ちゃんの出るドラマも終わって、成海璃子ちゃんも、終わってしまったし…。なんか、寂しいですよ。ハハハハ」
 いつのまにか、冴えないまま、もう四十四歳、どこからみても、いいオッさんになってしまった。志田未来さんは十八、成海璃子さんは十九だろうか。二人とも、そんなぼくのくたびれた心を癒してくれる、あこがれの女優さんである。
「あぁ…、ドラマも入れかわってしまうんですよね。でもだいじょうぶです。志田ちゃんも、璃子ちゃんも、また出てきますよ」
 言われてにっこりぼくも、うなずいた。
 人のよさそうな小太りの三十代の男のヘルパーさんである。
「ガッキー、やっぱり、かわいいですよね」
 というのが口癖だった。あこがれの女優さんのことを話すとき、細い目がたれる。ぽっこり出ているおなかを、またなでた。その動きにつられ、じっとみてしまう…。

2010年11月 5日 (金)

あの子もどこかで…

 街路樹の下の歩道を電動車いすで行く。葉ずれの音がして、枯れ葉が舞い散る。
 平成二十二年十一月四日は青空が広がり、雲がゆっくり流れていた。
 手続きの用があって、長町の銀行へ、ヘルパーさんについてもらって出かけた。
 思いのほか早く済んだので、ショッピングモールのCD売り場に、ふらっと寄ってみた。
 少し前まではネット上のレンタルサービスの会員になっていた。月に何枚もCDを借りるわけではないので、かえってわずらわしくなり、いまは利用をやめていた。
 入り口を入ると、音楽グループ〈いきものがかり〉のポスターが飾ってあり、ヴォーカルの吉岡聖恵さんの、心にしみる歌声が流れていた。
「あぁ、癒されるな…」
 思わずつぶやく。〈いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~〉というアルバムCDが発売されたのはわかっていた。そのうちだれかに借りようと思っていたが、目の前にするとほしくなり、
「う~ん、買います」
「買っちゃいますか。フフ」
 ついて歩いてくれていたヘルパーさんに、気がつくと、そう指示していた。
 ルンルン気分で、売り場を出ると、本屋さんとのあいだに、来年のカレンダーが並んでいた。
「一年たつのって、あっという間ですよね。もう、また、年とっちゃうわ」
 言いながら、ゆるいパーマの四十代の主婦のヘルパーさんがついてきてくれていた。強い風が吹くと、髪のかたちがサザエさんになる人だ。
 見やすいカレンダーがいいと思って眺めていると、肩を軽くポンとたたき、のぞき込んで、
「尾崎さん、志田未来ちゃんのカレンダーとか、いいんじゃないですか」
「えっ。ハハハ、未来ちゃん、かわいいけど、部屋に飾るのはちょっとかわいそう…。だってぼく、オッさんだよ」
 志田未来さんは、いまは高校生の女優さんだ。大手広告会社を舞台にした〈サプリ〉というドラマが何年か前にあり、子役で出ていた。
 そのときのころっとした目、ちょっとふっくらしたほお、ちょっとひかえめなキャラ、そこからかもし出す雰囲気に、どきっとしたことがあった。
 ぼくが十四、五歳のころ、障害児施設の夏休みや冬休みに、母の実家のほうへ帰省していたときだった。よく縁側に座って外を眺めながら過ごしていた。すると毎日のように家の前を通っていく女の子がいて、はじめは気にもとめないでいた。
 おかっぱ頭で、ころっとした目、少しほおのふっくらした子だった。十二、三歳ぐらいだろうか。
 女の子など、特別意識したこともなかったのに、気がつくと、
「手も足も曲がってかっこわるいし、おしゃべりだって、うまくできないし…。ぼくなんか…」
 そんなことを思い悩むようになり、眠れぬ夜を何日も明かしていた。
 そのころラジオからよく流れていた村下孝蔵さんの〈初恋〉という歌が、気持ちを代弁してくれているように思えて、じっと聴いていた。
 〈サプリ〉というドラマに出ていた志田未来さんの姿をみた瞬間、あの子が重なって、どきりとしたのである。その話をヘルパーさんにしたことがあった。
「あの、なんていうか、リアルな志田未来ちゃんじゃなくて、似てるコが昔いたっていう話、したじゃないですか。名前も知らないし、片思いなんだけど、そういう、思い出みたいなものがあって…」
 にっこりうなずきながらヘルパーさんは、
「なんとなく、わかる気がします」
 いつのまにかぼくも四十三歳になり、白髪もほんの少しずつ増えてきた。
 どこからみても、哀愁ただよう、冴えないオッさんだ。けれど、目を閉じれば、あの子が、ほほえんでくれている。
 アパートの部屋でひとりになり、買ってきた〈いきものがかり〉のCDをかけ、布団に横たわる。
 心にしみる吉岡聖恵さんのやさしい歌声に癒される。あのころのあの子を思いながら、いつしかぼくは、まどろんでいた…。

2008年4月23日 (水)

恋人型ロボット

 言ってほしいことをなんでも言ってくれて、いつもやさしくしてくれる。
 そんな恋人ロボットがいたら、やっぱりうれしくなっちゃったりするのかなぁ。
 先週の火曜日からはじまった「絶対彼氏」というテレビドラマをみながら、ふと思ったりする。
 相武紗季さん扮する主人公の女の子は、いいなぁと思う人がいても、どうやら告白してはいつも振られてばかりいるらしい感じの子である。お人形でもいいからさびしい気持ちを癒されたい。
 理想のすがたかたちにつくります、という販売員とたまたま会い、これはと思って飛びついたのかな。あんまりくわしくはわからないけれど、たぶんそんな感じなんだろう。
 届いてみると、見た目は生身の人間とほとんど変わらない。イケメン俳優の速水もこみちさんが、そのロボット役になっている。
 もしぼくだったら、どんなすがたかたちにしてもらうだろうな。そういえば、
「尾崎さんは、だれかいいなあと思うひと、いないんですか?」
 とくに女性のヘルパーさんに聞かれたりすることもあるが、う~んとうなってしまう。そういう話しはあんまりしたことがなかったなぁ。そういう部分の気持ちはいつのまにか忘れてしまっていたような気がする。
「けれど、だいぶむかしの話なんだけど、十五、六のころかなぁ。夜も眠れなくなるくらい気になってた女の子がいたんだぁ。ちょっとほっぺがふっくらして、目がコロッとしててね」
「いまの女優さんでいうと、どんな感じ子?」
「う~ん、いまだとね…。そうだぁ。あの『14才の母』とかに出てた子…」
「もしかして、志田未来ちゃん?」
「そうそう。あの子をもっと田舎っぽくしたような」
「じゃあ、かわいかったんだねえ」
「うん」
 そうだ。ぼくのロボットは、あの子にしよう。
 若かりしころの片思いでも、思い出してみると、こころが癒され、疲れが吹っ飛んでしまう。
 いつの夜だったか、ぼくはこんな空想にふけっていた。
 けれどもな、もう四十の、しかも冴えないオッさんになってしまったし、こんなかわいい女の子といっしょに遊園地やディズニーランドへ行くなんて、こんなんじゃぁ絵にもならねえよな。
 どこかに魔法使いのヘルパーさんはいないのか。
 一日でいいから、ぼくをジャニーズ系のかっこいい男の子にしてくれ!
 すると、そのとき玄関のチャイムが鳴った。
 ひげが生えかけで、髪はもじゃもじゃ、デッカイからだをした男の人が、にこにこしながらあらわれた。
「ジャニーズ系のヘルパーさんって、いま、わたしのこと呼びましたよね。前からそう思ってたんでしょ、尾崎さん!」
 いつのまにか寝る時間になっていて、就寝介助に来たのだ。
「尾崎さん、ぼく、木村拓哉に、似てますよね」
「そ、そ、そうですね。はははは」
 なんだかそう言ってうれしそうにしているようすをみていると、こちらまで、にこにこ顔になってくる。
 おもてむきはちがってみえても、みんなそれぞれに、なんらかの寂しさをかかえているのかもしれないなぁ。もうロボットでもいい。この淋しいを心を受けとめてくれるなら…。