こころの支え

2017年7月10日 (月)

耳元でささやく声に

 自宅でふとんに寝ていると、左の耳元で、女の人のささやく声がして、
「しんや、しんや…」
 はっと目が覚めました。
 時計をみると、六時四五分、あと十五分で起床時間です。部屋にはまだ、ぼくしかいません。
 夏になると、〈ほんとにあった怖い話〉というオムニバスのスペシャルドラマをやっていたりしますが、夜、ひとりしかいない静かな部屋でぼんやり眺めながら、つくりもんだな、と思ったりしています。
 今朝の耳元でささやく声も、外のカラスの鳴き声が、そいうふうに聞こえたんだろうな、と思いました。
 かりにお化けだったとしても、それはそれでぼくは平気なのです。
 お金のからんだりする人や団体のいうことは信用しません。
 が、辛いとき、見えないところで支えてくれていたのかもしれないな、とあとからふりかえって、感じることはあります。
 数年前、とてもつらかったときがありました。
 これまで頑張ってきたことは、なんだったんだろう、と、気が滅入っていたのです。
 まったく別々の人から、
「反省なんて、なんにもしなくていいんです。あたりまえにしていても、災難はあるものです」
 それだけいわれておりました。
 朝目覚めてテレビをつけた瞬間、
「これまでやってきたことに、自信を持て!」
 という第一声が、タイミングよく流れてきたりということが多かった。美輪明宏さんが黄色い髪で出てきて、だいじょうぶよ、だいじょうぶだから、と笑みをたたえ、肩をなでてくれる夢もみました。多くは語らず、これからどうしたらいいか、ということは、ヒントもなにもありません。ただ、そういうことは落ち込んでいた時期にかぎってです。
 テレビなどの記憶のいたずらや常識だけでは割り切れないことがなんとなく、あるな、というような気もしています。
 みえないところからも支えられているような気がしながら、ぼくは生きています。

| | コメント (4)

2017年7月 6日 (木)

日によっては本田美結ちゃんだったりもする

 流れるCM、広瀬すずちゃんを拝めば、ガチガチになったオッサンの頭にも、草原のそよ風が、吹きぬけていく。
ヘ(・.ヘ)(ノ.・)ノしりふりダンス♪
 フェースブックを読み返してみれば、そんなつぶやきが多くて、われながら、なんじゃこりゃ、と思う。疲れがたまっているのだろう。日によって、すずちゃんのところが、本田美結ちゃんだったりする。そういうとき、子猫や子犬をみて、かわいい、と癒やされる感覚に近いかもしれない。
 頭の中は、おとぎの国なのだ。そこでのぼくの姿は、歌って踊れる、ジャニーズ系の少年ということになっている。
「あなたにとって、ちいさなしあわせって、なんですか」と問われれば、まちがいなく、そういう瞬間、と答えるだろう。
 生きていくために介助を必要とする者としては、年々不安が増している。福祉の支え手が少なくなっていき、合わないからといっても介助者を変えてもらうわけにはいかなくなろう。このままだとさらに日々の介助者との関わりだけで神経をすり減らすようになっていくのではないか。休む時間がないと、やっていけないわけである。
 日本のお偉いさんよ、新聞を読んでみたまえ。
 学校ではイジメによるとされる生徒の自死、電車内の痴漢逮捕、家庭内の問題で起きる事件。
 人と人との関わりは、口も満足、体も満足な人同士でさえ、むずかしいのである。
 そろそろ良心をあてにした福祉のかたちを、もっとシビアな目をもって変えていけないものなのか。介護職の給料があがらないかぎり、しっかりした人も集まるまい。
 ときたま、障害者はラクでいいな、なんて声を聞く。そういう人たちも、他の立場をわが身に置きかえられない、という障害を抱えているんだろうな。身体の障害を背負って五十年生きてきたいま、しみじみ思う。そういう人たちを福祉職に就かせて、いいわけがない。
 ほかの職種に就けない人も、世間体といったたぐいの理由だけから、しょうがなく就く仕事にしてしまわれては、ほんとうに困るのである。 
 体も動かず口もきけない人たちが、どんな心ない仕打ちに堪えて、つらい日々を送っているのか、ほんとうにわかってらっしゃるのか。かたちばかりの対策では意味がないのである。
 医学の進歩で診断名のつく病気がふえていよう。これまで健常者とされていた人たちにも、そのうちなんらかの障害名が診断されてついていくんじゃないか。
 健常者という言葉がなくなるころ、はたしてどうなっているのだろう。わかりあえる社会になっているか。もう人という類はいなくなっているのか。まあ、難しい話はいい。
 わかり合えない社会をふんばって生き抜くのに、この白髪まじりのオッサンの心も少々くたびれてきた。お手上げと思い、まけてしまいそうになるときがある。
 テレビ画面の向こうは遠い世界だけれど、それでもそこに広瀬すずちゃん、本田美結ちゃんの笑顔があらわれるだけで、もう少しがんばってみようという気持ちになれるのだ。
 テレビに関わる御方々、これからもたのみますぞ。

| | コメント (0)

2016年9月18日 (日)

ドラマよ

 武井咲ちゃんも癒やされる女優のひとりだったのだけれど、変わってしまいました。このところのドラマは、どぎついラブシーンがやたら多くて、いやになることがあります。
 ちがうドラマに出てても、もう武井咲さん、ただの大人のひととしか思わなくなりました。
 いちばんのファンだった志田未来ちゃんも、こちらは週刊誌などですが、熱愛報道が流れるようになるにつれ、冴えないオッサンは現実に引き戻されてしまって、あまりうれしくなくなりました。
 なぜ、あこがれの女優さんを一人にしないのか。
 よく聞かれます。
 あこがれの女優さんを一人にしたところで、ぼくの彼女になってくれるわけではありません。
 年頃を過ぎて、ベタベタした恋愛ドラマの出演が多くなると、いやになることがあるからです。
 そこへいくと、夕べの『瀬戸内少年野球団』というドラマはよかった。
 あこがれの女優さんの一人、子役の本田望結ちゃんが出ていたからでもありますが、もうひとつには大人の男女関係を描くにも奥ゆかしさがありました。
 作詞家阿久悠の少年時代のひとこまを元に描いたものですが、本田望結ちゃん演じる女の子がかわいらしくて癒やされるのです。
 その女の子が転校してきた日から、主人公の阿久悠少年とお互い気になっていたようでした。
 本田望結ちゃん演じる少女は、ほろ苦い思い出を残して、また別な地へ転校していきます。小さな恋の物語として、ぼくはみていましたが、すごく癒やされました。
 もうすぐ子役じゃなくなるにしても、本田望結ちゃんの笑顔は天使です。もう少し、そのままでいてほしいと、寂しいオッサンは願ってしまいます。

| | コメント (2)

2015年1月20日 (火)

どうか出てきておくれ

 仕事に追われていたことで、家族の心を傷つけていたことに気づき、絆を取り戻そうと決心、どうやらそこから始まっているようだ。
 その主人公の警部補を演じているのは、ちょっと親しみのあるイケメンの谷原章介さん(42)である。子どもが3人いて、奥さんはもういない。
 先週からみていたドラマ〈警部補・杉山真太郎〜吉祥寺署事件ファイル〉で、TBSで月曜の8時に放映されている。
 ちょうど風呂に入るため、ヘルパーさんがアパートにくる時間である。あがって落ちついたらゆっくりみようと、録画機の予約をセットをしていたつもりだった。
 指が開かないときは、リモコンのボタンを、げんこつの角で狙って押す。ついたけれど、ガ~ン、ちゃんと録れていなかった。
 浮いた話もなく47年、いつしか白髪も目立ってきた。この冴えないオッサンの寂しさを癒やしてくれる女優さんのひとり、本田望結ちゃん(10)に会えなかったのが、なによりもショックだったのだ。子役で出ていた。
 日々のストレスや疲れなんて、みんな吹っ飛んでしまう。天使のよう望結ちゃんの笑顔に会えるから、ぼくは1日がんばったんだよ。
 どうか出てきておくれ。なになに、物理の法則で出てこれない? そんなむずかしいこと、いいじゃないの、ねえ。
〈切〉にしたが、あきらめきれず、もういちど〈入〉にしてみる。どこでどう、押しまちがったか。意に反して手足が動く症状がある。それで別なボタンにあたってしまったのか。予約にはなっているのだが、なぜかついていた〈休〉のマークが、
――ダメよ、ダメダメ…。

| | コメント (0)

2014年12月 3日 (水)

ジャニーズのイケてる少年にしてくれ

 布団の中で眠りから覚める。
 やはり47の冴えないオッサンである。もうどうでもいいさ。そんな年とか世間とか気にしたって、つきあってくれる女性さえ、ひとりもいなかったからな…。
 あこがれの志田未来ちゃんと、ディズニーランドへ行くんだと、念を込めて寝ているのに、障害児施設にいたころの思い出したくないつらいシーンが出てきて、このところはうなされるばかり。
 なんだかな~。
 枕元のリモコンのボタンをどうにか押し、テレビがつく。と、とたにほおがゆるんだ。ちょうど朝の情報番組〈めざましテレビ〉の視聴者対戦コーナーで、きのうだったか、
「じゃんけんぽん」
 という、本田望結ちゃん(10)のかわいらしい笑顔が現れた。
 お~ぉ。
 ちなみに見た目は冴えないオッサンだけれど、そのとき心は少年だった。
 いやな夢は、一瞬で忘れ、気持ちが穏やかになる。
 それだけで、一日がんばれる気がした。そして思う。
――なぜ、めざまし時計はアラームとか、ベルの音ばっかりなんだ。本田望結ちゃんとか、志田未来ちゃんが起こしてくれるような感じにできるめざまし時計は、ないのか。それとぼくは、手があまり利かないから、1回だけ、『おはよ~、朝だよ~』と言ったら、ボタンを押さずとも、自動で止まるのがいい。
 いや、やっぱり、夜になると思う。せめて、いい夢がみたい、と。
 魔法使いよ、歌って踊れる、ジャニーズのイケてる少年にしてくれ。
 志田未来ちゃん、だめなら、本田望結ちゃんでもいい。
 ディズニーランドに行きたい。今夜こそ念を込めて…。

| | コメント (0)

2012年9月30日 (日)

〈リセット~本当のしあわせの見つけ方〉

 夫と中高生の娘のいる主婦を演じていたのは、鈴木保奈美さんである。二人の女友達は、高校時代の同級生だ。片方はキャリアウーマンの長女で年老いた母親の面倒をみている。もう一人は、水商売らしかった。三人とも、共通しているのは、
──このまま、年取っていくのよね
 というくたびれた表情だった。
 そこへ魔法使いのような青年が現れ、高校時代へ戻してもらい、人生をやり直す話である。さきほどまで〈リセット~本当のしあわせの見つけ方〉という秋の特別ドラマをみていたのは、あこがれの志田未来さんが出るからだった。
 中身が四十代の女子高生の演技がおもしろかった。三人のなかで、ぼくは志田未来さんと桜庭ななみさんしか知らないけれど、その口調がおばさんになりきっていて、かわいらしい顔とのギャップに笑いがこみ上げた。さすが女優さんである。
 それぞれちがう人生を四十代まで生きてはみるが、けっきょくは元に戻してほしい、となる。そのとき、
「わたし、わかったの。何をするか、じゃなくて、どんな気持ちでするのかが、だいじだったのよね」
 そんな意味の鈴木保奈美さんのセリフが心にしみた。
 いや、それよりも、高校生役を演じる志田未来さんの浴衣姿に頬がゆるみ、心がときめいた。いつのまにかぼくも四十五歳、そのうえ、こんな冴えないオッさんじゃ、夢のなかだって、志田ちゃんに相手にしてもらえないだろうな…。
──魔法使いさん、こっちにも来てください。ジャニーズ系のかっこいい少年にしてください。志田ちゃんのあこがれの阿部寛さんでもいいです。
 よし、きっと、いい夢、みるぞ!

| | コメント (0)

2011年12月22日 (木)

湯船につかり…

 湯船につかり、ふうっと息をつく。
 そばで汗を拭いながら、ひとりで何か呟いている。
「あぁ、ぼくのほとばしる肉汁が、尾崎さんにかかってしまっては…」
「???」
 風呂に入る日で、夜の八時にその介助にみえていた。いつも行儀よく正座し、
「きょうの入浴介助は、この、イベリコ豚がさせていただきます」
 それから介助を始める。人のよさそうな目の細い、おなかぽっこりの三十代の男のヘルパーさんである。
「こんなに寒いのに、どうしてこう肉汁が吹き出してくるんでしょう。やっぱり、ぶくぶく太ってるからかな。う~、これじゃ、ガッキーに会ったら、なんて言われるか…。でも、ガッキー、やっぱりかわいいなぁ」
 細い目がたれていた。ガッキーは新垣結衣さんの愛称で、たしか二十三歳ぐらいだろうか。あこがれの女優さんらしい。クスッとしながらぼくも、
「そういえばガッキーの出てた〈らんま1/2〉、録画してみましたよ。ガッキーがらんまかと思ったら、あかね役だったんですね」
「ショートカットにして、ますますかわいくなりましたよね」
「…ですね」
「そういえば志田ちゃん、最近出てないですよね」
 こんどはぼくのほおがゆるむ。
「それがなんと、ブルボン〈牛乳でおいしくホットなココア〉のCMに出てるんです。もう、うれしくて…」
 気づけば四十四歳、浮いた話ひとつなく、きょうまできた。志田未来さんは、十八、九のあこがれの女優さんである。彼女の笑顔がいつだって、ぼくの淋しい胸のうちを癒してくれる。
──クリスマスは、志田ちゃんの写真を飾って、BGMは、〈ハッピークリスマス〉にしよう…。
 目を閉じれば、カッコいいファッションに身を包み、志田ちゃんと手をつないで光のページェントを眺めているぼくがいる。
 湯船につかり、いつしかぼくの目も、たれている…。

| | コメント (0)

2011年10月 1日 (土)

秋だから…

 湯船につかり、ふうとひと息つく。
 夜の八時過ぎである。入浴の介助でアパートにみえていた小太りの三十代の男のヘルパーさんが、
「こんど、またガッキーが出るドラマがあるので、楽しみなんです」
 その女優さんがお気に入りのようで、細い目がうれしそうにたれていた。ガッキーは、新垣結衣さんの愛称である。二十三ぐらいになるのだろうか。
 お父さんと中身が入れかわってしまう。そんなドラマが以前あった。女子高生の役で出ていて、毎週みていたのを思い出す。にっこりしながらぼくも、
「〈らんま1/2〉の実写版ですね。水かぶると、男の子になったり、女の子になったりするんでしたっけ。だいぶむかし、ちょっとだけ、まんが、みたことありますよ」
 ぽっこり出ているおなかを、彼はいとおしげになでていた。その動きにつられ、じっとみてしまう。
「夏バテでへこんだんだけど、復活してきました。外からも、虫の声がしてきますね」
 ぼくも耳をすまし、うなずきながら、
「やっぱりこれも、秋だから、ですかね」
 平成二十三年九月三十一日、空は雲が広がっていた。車の行き交う歩道を車いすを押してもらいながら行くと、ひとひら、ふたひら、枯れ葉が舞ってきた。午後の二時ごろだろうか。少なくなった定期薬をもらいに、かかりつけの診療所へ出かけていたのだった。
 歩道のあちら、こちらと、枯れ葉がわずかに落ちていた。街路樹はまだ緑が多い。けれど、住宅地の家の庭の柿の木の実が、前日通ったときより、いくぶん大きくなっていた。車いすを押してくれていたヘルパーさんも、
「やっぱり、秋ですね」
 しみじみと呟く。ふくよかな三十過ぎの主婦のヘルパーさんで、
「寒くないですか。尾崎さん、やせてるから。あたしは肉ぶとん、まとってるから、平気だけれど…」
 思いのこもった声だった。
「いや、あの、ですね、だいじょうぶです」
 というよりも、笑っちゃいけないところだと、こらえるのに必死なぼくだった。ちょっと冷たい風が、首すじをなでていく。
「そろそろインフルエンザの、予防注射の時期ですかね」
 聞かれて首を傾け、
「たぶん、申し込みは十月の末ぐらいだったと思いますよ」
「じゃぁ、まだ早いですね」
 うん、といいながら、もうすぐそんな時期なんだ、とあらためて思う。
「ことしは、大地震とか、いろいろありましたからね」
「ほんとです」
 診療所の待合室で、そんなやりとりをしていた。
 帰宅後は、パソコンに向かう。運動神経に関わる障害である。手があまり利かないので、割りばしをつけたサンバイザーをかぶり、頭を動かしながらキーを打つ。
 やるべきことが一通り終わり、ホッとする。
 風呂に入った夜は、ゆっくりすごす。すきな女優さんの出るドラマをみるのも、いつもの楽しみだった。
「風呂あがってから、なにかドラマとか、あるんですか」
 ヘルパーさんに聞かれ、首を傾ける。
「それがですね。志田未来ちゃんの出るドラマも終わって、成海璃子ちゃんも、終わってしまったし…。なんか、寂しいですよ。ハハハハ」
 いつのまにか、冴えないまま、もう四十四歳、どこからみても、いいオッさんになってしまった。志田未来さんは十八、成海璃子さんは十九だろうか。二人とも、そんなぼくのくたびれた心を癒してくれる、あこがれの女優さんである。
「あぁ…、ドラマも入れかわってしまうんですよね。でもだいじょうぶです。志田ちゃんも、璃子ちゃんも、また出てきますよ」
 言われてにっこりぼくも、うなずいた。
 人のよさそうな小太りの三十代の男のヘルパーさんである。
「ガッキー、やっぱり、かわいいですよね」
 というのが口癖だった。あこがれの女優さんのことを話すとき、細い目がたれる。ぽっこり出ているおなかを、またなでた。その動きにつられ、じっとみてしまう…。

| | コメント (0)

2010年11月 5日 (金)

あの子もどこかで…

 街路樹の下の歩道を電動車いすで行く。葉ずれの音がして、枯れ葉が舞い散る。
 平成二十二年十一月四日は青空が広がり、雲がゆっくり流れていた。
 手続きの用があって、長町の銀行へ、ヘルパーさんについてもらって出かけた。
 思いのほか早く済んだので、ショッピングモールのCD売り場に、ふらっと寄ってみた。
 少し前まではネット上のレンタルサービスの会員になっていた。月に何枚もCDを借りるわけではないので、かえってわずらわしくなり、いまは利用をやめていた。
 入り口を入ると、音楽グループ〈いきものがかり〉のポスターが飾ってあり、ヴォーカルの吉岡聖恵さんの、心にしみる歌声が流れていた。
「あぁ、癒されるな…」
 思わずつぶやく。〈いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~〉というアルバムCDが発売されたのはわかっていた。そのうちだれかに借りようと思っていたが、目の前にするとほしくなり、
「う~ん、買います」
「買っちゃいますか。フフ」
 ついて歩いてくれていたヘルパーさんに、気がつくと、そう指示していた。
 ルンルン気分で、売り場を出ると、本屋さんとのあいだに、来年のカレンダーが並んでいた。
「一年たつのって、あっという間ですよね。もう、また、年とっちゃうわ」
 言いながら、ゆるいパーマの四十代の主婦のヘルパーさんがついてきてくれていた。強い風が吹くと、髪のかたちがサザエさんになる人だ。
 見やすいカレンダーがいいと思って眺めていると、肩を軽くポンとたたき、のぞき込んで、
「尾崎さん、志田未来ちゃんのカレンダーとか、いいんじゃないですか」
「えっ。ハハハ、未来ちゃん、かわいいけど、部屋に飾るのはちょっとかわいそう…。だってぼく、オッさんだよ」
 志田未来さんは、いまは高校生の女優さんだ。大手広告会社を舞台にした〈サプリ〉というドラマが何年か前にあり、子役で出ていた。
 そのときのころっとした目、ちょっとふっくらしたほお、ちょっとひかえめなキャラ、そこからかもし出す雰囲気に、どきっとしたことがあった。
 ぼくが十四、五歳のころ、障害児施設の夏休みや冬休みに、母の実家のほうへ帰省していたときだった。よく縁側に座って外を眺めながら過ごしていた。すると毎日のように家の前を通っていく女の子がいて、はじめは気にもとめないでいた。
 おかっぱ頭で、ころっとした目、少しほおのふっくらした子だった。十二、三歳ぐらいだろうか。
 女の子など、特別意識したこともなかったのに、気がつくと、
「手も足も曲がってかっこわるいし、おしゃべりだって、うまくできないし…。ぼくなんか…」
 そんなことを思い悩むようになり、眠れぬ夜を何日も明かしていた。
 そのころラジオからよく流れていた村下孝蔵さんの〈初恋〉という歌が、気持ちを代弁してくれているように思えて、じっと聴いていた。
 〈サプリ〉というドラマに出ていた志田未来さんの姿をみた瞬間、あの子が重なって、どきりとしたのである。その話をヘルパーさんにしたことがあった。
「あの、なんていうか、リアルな志田未来ちゃんじゃなくて、似てるコが昔いたっていう話、したじゃないですか。名前も知らないし、片思いなんだけど、そういう、思い出みたいなものがあって…」
 にっこりうなずきながらヘルパーさんは、
「なんとなく、わかる気がします」
 いつのまにかぼくも四十三歳になり、白髪もほんの少しずつ増えてきた。
 どこからみても、哀愁ただよう、冴えないオッさんだ。けれど、目を閉じれば、あの子が、ほほえんでくれている。
 アパートの部屋でひとりになり、買ってきた〈いきものがかり〉のCDをかけ、布団に横たわる。
 心にしみる吉岡聖恵さんのやさしい歌声に癒される。あのころのあの子を思いながら、いつしかぼくは、まどろんでいた…。

| | コメント (0)

2008年4月23日 (水)

恋人型ロボット

 言ってほしいことをなんでも言ってくれて、いつもやさしくしてくれる。
 そんな恋人ロボットがいたら、やっぱりうれしくなっちゃったりするのかなぁ。
 先週の火曜日からはじまった「絶対彼氏」というテレビドラマをみながら、ふと思ったりする。
 相武紗季さん扮する主人公の女の子は、いいなぁと思う人がいても、どうやら告白してはいつも振られてばかりいるらしい感じの子である。お人形でもいいからさびしい気持ちを癒されたい。
 理想のすがたかたちにつくります、という販売員とたまたま会い、これはと思って飛びついたのかな。あんまりくわしくはわからないけれど、たぶんそんな感じなんだろう。
 届いてみると、見た目は生身の人間とほとんど変わらない。イケメン俳優の速水もこみちさんが、そのロボット役になっている。
 もしぼくだったら、どんなすがたかたちにしてもらうだろうな。そういえば、
「尾崎さんは、だれかいいなあと思うひと、いないんですか?」
 とくに女性のヘルパーさんに聞かれたりすることもあるが、う~んとうなってしまう。そういう話しはあんまりしたことがなかったなぁ。そういう部分の気持ちはいつのまにか忘れてしまっていたような気がする。
「けれど、だいぶむかしの話なんだけど、十五、六のころかなぁ。夜も眠れなくなるくらい気になってた女の子がいたんだぁ。ちょっとほっぺがふっくらして、目がコロッとしててね」
「いまの女優さんでいうと、どんな感じ子?」
「う~ん、いまだとね…。そうだぁ。あの『14才の母』とかに出てた子…」
「もしかして、志田未来ちゃん?」
「そうそう。あの子をもっと田舎っぽくしたような」
「じゃあ、かわいかったんだねえ」
「うん」
 そうだ。ぼくのロボットは、あの子にしよう。
 若かりしころの片思いでも、思い出してみると、こころが癒され、疲れが吹っ飛んでしまう。
 いつの夜だったか、ぼくはこんな空想にふけっていた。
 けれどもな、もう四十の、しかも冴えないオッさんになってしまったし、こんなかわいい女の子といっしょに遊園地やディズニーランドへ行くなんて、こんなんじゃぁ絵にもならねえよな。
 どこかに魔法使いのヘルパーさんはいないのか。
 一日でいいから、ぼくをジャニーズ系のかっこいい男の子にしてくれ!
 すると、そのとき玄関のチャイムが鳴った。
ひげが生えかけで、髪はもじゃもじゃ、デッカイからだをした男の人が、にこにこしながらあらわれた。
「ジャニーズ系のヘルパーさんって、いま、わたしのこと呼びましたよね。前からそう思ってたんでしょ、尾崎さん!」
 いつのまにか寝る時間になっていて、就寝介助に来たのだ。
「尾崎さん、ぼく、木村拓哉に、似てますよね」
「そ、そ、そうですね。はははは」
 なんだかそう言ってうれしそうにしているようすをみていると、こちらまで、にこにこ顔になってくる。
 おもてむきはちがってみえても、みんなそれぞれに、なんらかの寂しさをかかえているのかもしれないなぁ。もうロボットでもいい。この淋しいを心を受けとめてくれるなら…。

| | コメント (0)