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2009年5月

2009年5月31日 (日)

サンスベリアが、また伸びた?!

 きょうは、午後にみえた三十代の小麦色の肌をした男のヘルパーさんが、部屋に入るなり、
「あれ、あの観葉植物の葉っぱ、また伸びたんじゃないですか?」
 言われてみると、たしかに、同じ高さだったはずのそばの本棚より、もう二十センチはあたまが出ている。ぼくはうなずきながら、
「もう成長は止まった、と思っていたんだけど…」
 長町南のアパートのぼくの部屋には、観葉植物「サンスベリア」がある。
 テラス側の窓わきに置いているが、手入れは、月に一度か二度、ヘルパーさんに水やりを頼み、あとは濡らしたティッシュで葉っぱのほこりを二、三か月にいちど拭いてもらうぐらいだ。それだけなのに、葉っぱはぐんぐん育っている。
 この部屋に越したのは、一昨年の十一月だったが、そのときにもってきた。
 まだ少しもたたないころ、髪を微妙にちがう色合いのいくつかの茶で細いしまに染めた若い女のヘルパーさんが、ぼくの肩をポンとたたいて、それを指さした。大学にいる友だちの話もたまにしてくれていたから、そのぐらいの年ごろなのだろう。はじめてのときは髪型が今風で、格好いいなぁと少し見入った。おっとりした感じで、
「尾崎さん、この観葉植物、はじめから、こんなに大きかったんですかぁ」
 と聞いた。みればいつもそのころは、そばにある120センチの本棚と同じ高さだった。
「これですね、買ったときは、半分ちょっとしか、なかったんですよ。こんなんなるとは、思ってもみませんでした…」
 すると、はずんだ声になり、
「すごいじゃないですかぁ。尾崎さんも、たくさん食べて、成長して、もっと大きくなりましょうよ」
 ポンと肩をたたいた。ぼくはつぶやく。
「もう、四十一になるんだけど、まだ成長するかなぁ?」
 考え込んでいたが、はっと気づき、
「それってぼくが、チビってことですかぁ。ひどいです。でも、たしかに、お店で洋服選ぶときは、苦労するんです。とくに大人用のズボンは長いのばっかりで…」
 彼女はフンといって、いたずらっぽく笑った。
「だから、尾崎さんも、もっとおっきくなってね…」
 そして、ポンと肩をたたいた。
「はい、そうですね。がんばります」
 と答えたが、いったいぼくは、何をがんばれば大きくなれるんだろう、と首をかしげた。
 心身が少しくたびれていた時期だった。そんなやりとりをしているうち、気持ちが軽くなり、元気をもらっていた気がする。
 きょうの午後の男のヘルパーさんも、同じ事業所からの派遣で、サンスベリアの葉の伸びぐあいから、自然とその話になった。
「ぼくは、チビ、なんですかね」
 小麦色の肌をした彼は、まん丸い目をパチパチし、
「う~ん」
 困った表情が、いかにもひょうきんだった。
 サンスベリアの葉っぱたちは、鉢のなかで寄り合い、身をよじりながら笑っているみたいだ。毎日の人とのやりとりを、まるで漫才だ、と思われているのだろうか。

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2009年5月18日 (月)

チョボラ

 地下鉄長町南駅である。
 エレベーターのボタンへ、柵の向こうから男の子が手を伸ばしていた。小学五、六年生だろうか。
 ぼくは、ちらっと見ながら、
「どうしたのかな?」
 男の子はタッチすると、そのまま去ろうとしていた。
 ぼくは出かける用があり、地下鉄長町南駅から仙台駅のほうへ行こうとしているところだった。
 電動車いすを操作し、エレベーターの前で止まる。そのタイミングで、ドアがひらいた。
 はっと気づき、
「あの子…」
 ふり返りながら去って行く男の子へ、あたまを下げた。
 あんな紳士みたいな心づかいは、なかなかできるものではない。まだ小学生なのに…。
 温かいものが、じんわりひろがった。

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2009年5月 8日 (金)

ダイワハウチュでいいでちゅか?

「ダイワハウス」と言うべきところで、なぜか赤ちゃん言葉になってしまう、大和ハウス工業株式会社のテレビCMがある。
 指摘されると、俳優の役所広司さんは、ムキになり、
「言ってないよ!」
 相手が映画かドラマの、年上の監督であっても、そこだけため口になる。
 監督は、まじまじと見ながら、心の中だけでつぶやく。
「なんで、ダイワハウチュ、なんだ。役所君…」
 ぼくはアパートの部屋でひとり、風呂上がりの缶酎ハイをストローですすっていた。酔いがまわると、脳性まひの苦痛が緩和されてくる。楽な気分でテレビをみていると、このCMが流れ、吹き出しそうになった。
 どうしてムキになって、否定するんだろう。まわりはなぜ、そんなに気を使うのか。いろいろ想像し、おかしくなった。
「なんでここで…」
 しっかり言いたいところで、ちがった言葉になり、あとでため息が出ることは、ぼくもよくある。だから、このCMが、なんとなく、引っかかったのかもしれない。
 舌がうまく回らなくなるのは、脳性まひという、運動神経の障害があるからだ。
 ある看護学校のお祭りに、何人かで行ったときもそうだった。
 学校の廊下の端で、電動車いすでぼうっとしていると、通りがかりの髪の長い女の学生さんに声をかけられた。やさしそうな笑みを浮かべていた。
 お話ししながら、学生さんの制服にぬいつけてある名前をみる。ぼくは、「○○さん」と言おうとした。ところが舌がうまく回らず、
「○○ちゃん」
 となった。
 よりによって、会ったこともない女のひとの名前のあとに、ちゃんだなんて…、しまった! と思う。
 けれどもなぜか、気にしているのは、ぼく本人だけだ。学生さんは、あたりまえのように、にっこりしながら、そんなぼくの話し相手をしてくれているみたいだった。
 言葉の障害で、だいぶ知能も低い、というふうにみえていたかもしれない。それなら、それでもかまわない。女の学生さんはそれで上から見くだす態度になるわけでもなかった。そんなことより、この学生さんには、それなりの心づかいさえあった。やさしい人で、よかったなぁ、と、ぼくはそれが身にしみた。
 多少の誤解なんて、気にしたところで、なんにも始まらない。逆に、完ぺきに理解し合える人との関係なんていうのも、しょせんは、あり得ないものだろう。くよくよするのは、よそう。
 ぼくも、舌がうまく回らず、赤ちゃんの言葉になっても、CMの役所広司さんみたいに、あたりまえにしていよう。
「ダイワハウチュで…」

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