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2008年12月

2008年12月14日 (日)

夜の街で

 居酒屋さんを出たのは、夜の八時過ぎだった。
 十二月も中ごろになると、ジャンパーを着せてもらっていても、空気の冷たさが身にしみる。
 仙台駅周辺の夜は、赤や黄、ブルーの灯りがきらめいている。
 きのうはガイドのヘルパーさんについてもらいながら、南町通りあたりを、電動車いすでぶらついていた。
 ある障害者支援団体の忘年会があって、参加していたのだ。
 その日、介助についてくれたのは、ちょびひげを生やした、二十代なかごろの男の人だった。
 いっしょに歩いていると、ページェントがあり、サラリーマンや子どもを連れた家族がすれちがう。
 肩を寄せあうカップルも、けっこういたりする。
 ちょびひげのヘルパーさんが、うらやましそうなそぶりだった。
「今年初めてのページェントが、尾崎さんと、みることになるなんて……」
 よわよわしく笑いながら、いわれてみると、
「う~ん、たしかに、男二人じゃね~」
 ぼくもうなずいてはみるが、ほんとうなのかどうか。介助に入るたび、
「ぼく、彼女、いないんです。いい人いたら、紹介してくださいよ」
 なんて言っているが、それはぼくの手前のことで、ほんとはいないはずはないと、ぼくはにらんでいる。
 このヘルパーさんに介助をしてもらいながら、さっきまで、ぼくはビールを中ジョッキーで三杯近くのんでいた。
 まわりの男たちは、女の子の話で盛り上がり、ぼくはときどきうなずいて聞きながら、少しぼんやりしていた。そのうちの一人が、そんなぼくのようすをみて、
「ところで、尾崎さんは、彼女とかほしいと思わないんですか」
 こんなこと、聞かれても、ぼくはもう四十一の、しかも冴えないオッさんだ。
「いやあ、その……」
 とつまっていると、相手の人は眉をひそめ、まじまじと見た。
「もしかして、おかまだったりしないですよね。そういえば尾崎さんって、そう思ってみると、おかま系のような、雰囲気が……」
 そう言われ、返す言葉が見つからずにひきずり笑いをしていると、となりにいた坊主頭のOさんが、赤い顔で飲んでいた取っ手付きのコップをドンとおき、言い放った。
「尾崎さんは、ストレートの男性です!」
 ぼくと同じ脳性まひで、電動車いすに乗っている。三十代前半の、障害者男子レスラーだ。
 少し間があって、
「えっ、ストレートの男性ってなに?」
「そっかぁ、わかった! 信じて、いいんですね」
「よかった~」
 目をぱちぱちしながら、どうしてぼくは、こんな話の展開の中にいるのだろうと、首をかしげた。
 そのうちぼくも、酔いが回ってきた。いつもの脳性まひの症状が緩和され、体が楽になってくる。
 ──なんか、いい気分だな。
 たまにはこんなふうに、だれかと騒いで過ごすのも、いいかも……。そう思えてくる。
 ちょびひげのヘルパーさんについてもらって、電動車いすで家路に向かう。途中、ぼくは、夜の街にきらめく光を、もういちど、ゆっくり眺めた。

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2008年12月 7日 (日)

心にしみる ギターと歌声

 ボラさんに車いすを押してもらいながら、一番町の藤崎デパート前へ向う。
 あたりがうす暗くなってきて、空気が冷たい。
 雪がちらつきだした。歩行者天国のアーケードへ入ると、ブルーやオレンジ、赤の光が彩っている。
 クリスマスツリーが、歩道や店々に飾られていた。
 肩を寄せあうカップルがちらほらいて、ぼくの車いすの行く手をはばんでいる。
 そうか…、もうすぐ、クリスマスなんだぁ。
 そこで『エル・クルー』のコンサートがあり、きのうはボラさんと聴きに出かけていたのだ。
 ぼくは車いすで、よくみえる特等席に連れてきてもらっていた。
 冷たい風の中、やさしいギターのメロディーが流れ、きれいな声が響きわたる。
 歌っている女のひとの、白いドレスのすそが、ひるがえっている。
 吹いてくる風は冷たかったが、目を閉じて聴いていると、その歌声は、ぼくの心に灯をともしてくれた。
 脳性まひ、という障害がぼくにはあり、体と言葉が不自由である。
 何もしていないときでも、つよい力が入って、自分で抜くこともうまくできない。
 だからときどき布団に横になり、休むようにしている。そんなとき、ゆっくりしたやさしい感じの曲をかけると、よりリラックスできる。
 ふだん、パソコンが調子わるくなったとき、いつもみてもらっているボラさんと、ときどきメールのやりとりをしていて、その話になった。
「仙台にも、きれいな歌を聴かせてくれる歌い手さん、いますよ」
 と教えられ、きのう、はじめて聴きにいった。
 たくさんのカップルに囲まれたぼくは、
 ──もし、生まれ変わる、ということがあるとしたら、ぼくもこのカップルのうちのひとつになって、こんなすてきな歌を聴いていたいなぁ。
 いつしかロマンチックな気分に、ひとり、ひたっていた…。

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2008年12月 1日 (月)

月が変わって、もう師走なんだぁ…

 パソコンのキーの操作も、ぼくの手指はねらったところへあまりうまく動かないから、割りばしをつけたサンバイザーをかぶり、あたまを動かしながらキーボードのキーを押す。
 利用しているいくつかのヘルパー派遣事業所とのやりとりや、いろんなところへの連絡はメーを使う。
 生活上出てくる経費、買い物の振り込みも、だいたいパソコンでやってしまう。
 パソコンでなんでもできちゃう感じなので便利だが、少しすると首だけでなく、からだじゅうが疲れた感じになる。
 脳性まひによる障害で、何もしていないときでも、起きて活動しているあいだはずっと力が体に入るからである。
 ときどき布団に横になる。一息つきながら、ふとカレンダーを眺める。
 カレンダーは前の日に思い出して、ヘルパーさんに頼んでやぶいてもらっていた。
 いつだったか月が変わる前の日、ぼくはパソコンとかでくたびれて、起きたままでちょっとそのあたりをさすってもらいながら、少しぼんやりしてしまっていた。そのときはショートの茶髪で目のパッチリした女性のヘルパーさんだったが、ときどき大学にいるお友だちの話もしていたから、たぶん二十歳をちょっと出たくらいなんだろう。
 ぼくは疲れのせいでいつのまにか、舟をこいでいた。
「尾崎さん尾崎さん」
 肩のあたりをポンポンかるく叩かれているのに気づき、ハッとしてあわてていると、そのヘルパーさんがのぞき込んで、いたずらっぽい微笑を浮かべていた。
「眠いんですかぁ、尾崎さん。明日からもう○月ですよ。もしかして、また忘てたんでしょう。一日早いけど、カレンダー、やぶいちゃいますか。たぶん尾崎さんのことだから、いま気づいたときにやらないと、ずっとそのままになっているような気がするんだけど…。フン」
 言われてみると、ぼくは思った。
「たしかに、そうだったかも……」
 みている人は、ちゃんとみているんだなぁ、それもぬけてるところ……。
 ぼくもしっかりしなきゃと、月が変わる前の何日間かは、それ以来、カレンダーのこともなんとなく気にするようになった。
「師走かぁ。今年も、一枚だけになってしまったんだなぁ」
 ヘルパーさんだけでも、たくさんの入れ替わりがあって、たくさんの人に出会って、いろんな関わりがあったなあと、しみじみ思う。
 来年は、どこでどんな人と会って、どんな関わりがあるんだろう。
 カレンダーを眺め、いつしか祈る気持ちになっていた。
 どうかいい人とたくさん出会って、心の中が、あったかい思い出で、いっぱいになりますように……。

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