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2008年11月 8日 (土)

みんないいヤツじゃん

 ある日、ちょびひげを生やした二十代なかごろの男のヘルパーさんが、微笑を浮かべながらも、何かをとまどっているようすだった。
「じつは、前から気になっていたことがありまして」
「えぇ、なんでしょう」
 ぼくはぬけているところがあるから、そのことか。
「いえ、そうじゃないんです」
 彼は打ち明けた。
「尾崎さんが、あの女の子かわいいと言ったっていう話、聞いたことがないなあと思いましてね。
 男の好きそうな話も、したがらないじゃないですかぁ。
 ふつうじゃないなあ、と気になってたんですよ。もしかして、性同一性障害じゃないかと…」
「なんと…」
 ぼくには脳性まひ、という障害があり、からだが不自由である。
 居宅介護サービスを利用しながらアパートを借りて暮らしているが、このヘルパーさん、介助をしながら、そのことをずっと気にしていたわけだ。
 彼は決心した顔になり、ぼくの目をじっと見た。
「ホモ、とかじゃ、ありませんよね」
 一瞬、そこには異様な空気が流れた。
「ハハハハ。まさか、そんな…。男の子なんて、すきになったこともないし、だいじょうぶですよ。心配いらないです」
 すると彼は、
「ですよねぇ。ちょっと失礼かと思ったんですけど…」
 ぼくはほっとしながら、
「いえいえ、気になることがあったら、なんでも聞いてください。そのほうが、いいですから」
 そう言って力なく笑った。
 それにしてもぼくはそんな印象を、関わってくれる男の人が気にするくらい、与えているのだろうか。
 ふしぎそうな顔でそう聞いてくる人は、じつは彼だけではなかった。子どものときからあったけど…。
「真也くんのしぐさ、女の子みた~い」と、からかう人もいたなぁと思い出すが、いやいや、それはちがうはず。
 別な若い男のヘルパーさんにも、ふしぎな感じで聞かれたことがあった。
「ぶっちゃけ尾崎さんは、女の子と話すときって、どんな感じなんすかぁ」
 ぼくはあたりまえのように、
「女の子の気分だよ」
 と答えた。むりしてそうしているわけではなく、気がつくと、自然にそういう気持ちになっている。すると、
「それじゃ、だめっしょ」
 彼は言ったが、何がだめなのか、首をかしげた。
「そういう関係にしちゃっていたら、彼女ができないじゃないっすか。もっと男としての自信を持たないと、だめっしょ」
「彼女? 男としての自信?」
 そうか、彼らなりにぼくのことを、心配してくれていたんだなぁ。
 なあんだ。みんな、いいやつじゃん……。
 気持ちはありがたいが、ぼくはやっぱり、これでいいと思うのである。
 そのときそのときで関わってくれる人と楽しく過ごせれば、そのほうが、ぼくの人生にはだいじだと思うから。
 ぼくだって十五歳のころだけど、好きになった女の子がいたんだよ。名前も知らないんだけど、いまでいうと、女優の志田未来さんみたいな雰囲気でね。
 志田未来さんがドラマに出ているのをみていると、むかしのあの子を思い出し、子どもに返った気分になって癒されるんだ。
 いまはそれで元気になっちゃってるんだから、だいじょうぶ。
「それじゃあ、オッさんになってしまうじゃないですか」
 納得できない顔で彼らは言う。けれど、じっさいぼくは四十一の、しかも冴えないオッさんだ。
 もうむかしだけれど、気がつくと、一人の少女のことがずっと気になって眠れなかった時期が、ぼくにもあったんだ。
 脳性まひで、手足も曲がってかっこわるいし、言葉もうまくしゃべれない。ぼくなんか、相手してもらえないだろうなぁ。
 そんなふうに思って、自分の障害のせいにして、天をうらんだっけなぁ。
 だれかに話せば笑われそうで、けれども、胸がしめつけられるよう感じがして…。その思いを書けば、少しは楽になるかと思っているうち、なんだか詩みたいなのができちゃって。
 いまじゃ、恥ずかしいんだけど、あんな時期も、たしかにぼくにはあった。
  君だけが…
君への思い 抱いたまま
青春が過ぎてゆく
何もかもが昨日のように
過ぎてゆく 過ぎてゆく
思えばこんな雪の日
楽しそうにはしゃぐ君がいて
ぼくはただ遠くで
君の笑顔 見つめてた
窓の外は白い雪
君だけがそこにいない
時の流れは音もなく
過ぎてゆく
思い出さえ残さぬように
今はただ ひとりきり
薄暗い部屋の中
ぼくはこうしてぼんやりと
窓に降る 雪を見る
雪の中 呼ぶ声がして
振り向けば ほほえむ君がいる
ぼくはただ胸の中
そんな夢を描いてた
心の中は白い雪
君だけがそこにいない
時の流れは音もなく
過ぎてゆく
ぼくだけを残して…
    尾崎真也
(二十歳前後の作)
 窓の外へ目をやりながら、日に日に寒くなってきたなぁと、ひとりつぶやく。
 ことしも、もうすぐ、雪が降るんだな…。


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